【解説】競争戦略より大切なこと
この記事は 経営コンサルタント高頭さん(@akinori_takato)による、Harvard Business Review 2018年10月号掲載の「競争戦略より大切なこと」の解説です。
マイケル・ポーターは「戦略の本質」の中で、企業が持続的な収益を出す上で、”業務効果”はすぐに他社に真似されるので他社との差別化を図る”戦略”に注力しないといけないと言いました。
業務効果:他社と類似の活動をよりよく、効率的に実行すること
例えば・・製品の品質を改善する、従業員のモチベーションを上げる。
戦略:他社と異なることをする、あるいは似ていることを異なる方法で実行すること
例えば・・ケーキ屋さんではなくチーズタルト専門店にする、車をディーラーではなくインターネットで販売する。
マイケル・ポーター「戦略の本質」記事の要約はこちら↓
はたしてマイケル・ポーターの言うように業務効果はすぐに他社に真似されるようなものなのか?
実際に調べてみたら、業務効果はポーターの言うほどそう簡単に真似されるようなものではなかった、というのがこの論文の主旨です。
例えばトヨタの工場は非常にオペレーションが良いことで知られていて、それを一般化してリーン生産方式というオペレーションの方法が体系化され、広まりました。
では世の中のどれくらいの工場でリーン生産方式がきちんと実施できているのかというと、トヨタほどうまくいっているところは現実にはなかなかありません。
実際にはベストプラクティスが世の中に広まってもそう簡単には真似できません。論文に書いてあるように、「経営管理能力の重要性を過小評価してはならない」のです。
例えば分かり易い例として介護業界があります。通称特養と呼ばれる特別養護老人ホームは、地域によって価格が決められています。
3人の利用者につき1人の職員を置くという、かけるコストの基準も決まっています。
人口あたり何軒の特養が立てられるかという、客数の部分も決まっています。
さらに特養の経営者は、特養をどのように経営するかについての教育プログラムを受ける必要があり、基本的に全員同じノウハウを持っていると言っていいでしょう。
このように特別養護老人ホームは、収入もコストもどこの施設もほとんど同じ条件です。ところが実際には赤字の施設と黒字の施設があるのです。これは経営のやり方がマズイところがあるからです。
施設によって教わったことができない人がいたり、その通りにできない事情があったりします。マネジメントは人が相手なので、変数が大きすぎるのです。
組織の中である手法を採用するためには政治力が必要です。
普通の企業で一番シビアに政治力が問われるのは給与関係の変更をするときです。
以前、富士通はアメリカの真似をして成果報酬にしましたが、結局うまくいきませんでした。管理手法も、受け入れられる文化が大切です。
結論を言えば、ポーターの言うように、”戦略”によるポジショニングは確かに大事だけど、社内のマネジメントもやっぱり大事だということです。
そしてその処方箋は一般解ではなく、会社によって違います。
加えて、この論文が書かれた背景を考えてみることも面白いです。
ポーターはピーター・ドラッガーのアンチテーゼとして出てきた人物です。20年経って今度はポーターのアンチテーゼが出てきました。それがこの「経営戦略より大切なこと」の論文です。
論文は新しいコンサルニーズを生み出します。この論文がでた後に、アメリカではマネジメント改善を得意とするコンサル会社の営業が各社をまわっていますよ。
参考記事:Harvard Business Review 2018年10月号 P20-32 競争戦略より大切なこと